冷蔵庫の奥から出てきたヨーグルトを見て、「あ、期限、昨日だったな」と思わず声に出したら、同居人に「それ、賞味期限だから大丈夫だよ」と言われた。
一瞬の間を置いて、「むしろ今日くらいが食べごろなんじゃない?」と続けられて、なんとなく返事に困った。半笑いで曖昧にうなずいたけれど、結局そのヨーグルトは食べなかった。
たしかに、「賞味期限と消費期限は違う」というのは、もはや一般常識に近い。
「消費期限=安全の期限」、「賞味期限=美味しさの目安」と、いくつものメディアや啓発キャンペーンが繰り返し伝えてきた。そのおかげで、少し期限が過ぎたくらいでは過敏にならなくてもいい、という空気は以前より広がっていると思う。
ただ、そうやって「気にしすぎなくていいよ」と言ってくれる人の多くが、「じゃあ、どのくらいまで大丈夫なのか?」という問いには、あまり答えてくれない。
一日? 三日? 一週間? 感覚で言えば「まあ、しばらくはいけるでしょ」といったところかもしれないけれど、その“しばらく”の長さは人によってずいぶん違う。
じっさい、賞味期限を過ぎたらすぐに味や安全性が損なわれる食品もあれば、冷蔵しておけば数ヶ月変わらないものもある。開封済みか未開封か、保存状態はどうか、工場出荷時の菌数がどのくらいか――そういった違いをすべて把握して「これは大丈夫」と判断するのは、ふだん食品業界で働いている人でも難しいんじゃないかと思う。
そもそも、日付を見て「そろそろ食べきろう」と意識するだけで、大半の食品は無駄なく食べきれるし、体調を崩すリスクも下がる。それって、けっこう低コストで得られる安心なんじゃないか。
もちろん、「多少の期限切れなんて気にしない」という人を否定したいわけではない。
でも、賞味期限を守ろうとする人が、過剰に神経質なわけでもない。むしろ、わかりにくい“境界”をあえて曖昧にせずに、淡々と線引きしているだけとも言える。
すこし乾いたパンや、色が薄くなったスープでも、「まあいいか」と済ませることはできる。でも、「どうしても食べなきゃ困る」という状況でもないなら、たとえ昨日が期限だったヨーグルトでも、そっと手放すほうを選びたくなる。
そういう小さな判断をいちいち重ねながら、自分なりの体調管理をしている。
それを「もったいない」と言われても、たぶん、また同じようにする気がする。